10月の館長たより

館長 雨貝行麿

 お健やかでしょうか。

10月になり、共同募金「赤い羽根」が目につきます。赤は「まごころ」を表わすようです。
さて、わたしは10月になりますとアッシジのフランチェスコの記念日があることを思います。
この記念日10月4日、彼が「貧しいものは幸いだ」というイエスさまのことばを文字通り信じ
て、実践し、34歳の生涯をアッシジで閉じた日にあたります。この日には特にその生涯を慕っ
て多くの人々がイタリア、ウンブリア地方の小高い山の上の町アッシジに巡礼してきます。訪ね
来た人々は、聖堂前の広場に、おもいおもいにかたまって一晩中ギターで歌を口すさんでフラン
チェスコの事跡を偲びます。丘の上を夕日が染めてしじまがおとずれますと急に冷え込んできま
す。しかし立ち去りがたい人と人との絆を感じます。今ではフランチェスコ修道会が作られてイ
エスさまのご意思に従って世界中で活躍していますが札幌でも「天使病院」を運営して病に苦し
む人々のために働いています。しかしフランチェスコはもともと修道士でも司祭でもありません。
ただの人でした。

 キリスト教信仰をこの世に伝える務めをもつ人々が、この世の権力者となってしまった時代に、
神さまは、ただの人青年フランチェスコに語りかけます、「わたしの壊れかけた家を建て直して
ください」。彼はこのことを相談する人がいませんでした。そこであまり自分ではしたことのな
かった祈りをしました。祈りのなかで気づきました。いまでは祠のようになってしまって、祈り
のためには誰も訪れることがなくなってしまった、あのチャペルを修理しよう。ただの青年でし
たのでこれは容易でした。

 神さまはいつも人間の世界で新しい事を始めます。宗教家たちではなく、ただの青年に語りか
けるのです。

 しかしまもなく「チャペルを修理する」のではなく「神の家を修復する」ことであったのです。
当時では反社会的でした。なぜなら宗教のことは宗教家たちが携わるという考えがしっかりと形
作られている社会でしたから、宗教家ではない市民の仕事ではないからです。ちょうどガリレオ
が数学者であるのに宗教家のように振舞ったときのように危険でした。でも、そもそもルカの福
音書にも同じことが書いてありますね。そう、こともあろうに(神さまのことを無視するような
人だといわれていた)サマリアの人が、神さまが喜ばれることをして宗教家たちがしなかったと
いうのですね。宗教家たちでもしなかったとでもいうのでしょうか。

 しかし、この時のローマ教皇庁は、ひとりの市民の宗教的行為に対して良しと認めてしまうの
です。教皇庁は賢明な判断をしました。賢明さは、まことに「適切」な判断をします。これに対
してフランチェスコの側も賢明です。おおくの鳥たちがフランチェスコの話に耳を傾けたとした
のです。多くの人々が彼の話に耳を傾けたに相違ないのです。説教することができるのは、司祭
だけでした。この「できる」は法的に許されるという意味です。だから市民のひとりが人々に説
教したとなりますと教会法の処遇の対象となるのです。

 フランチェスコは「わたしの壊れかけた家」とは「教会」のことだったと気づきます。しかし、
ひとりの市民が「世俗的にも権力となった機構」をどうやってつくりなおすことができるでしょ
うか。

彼はイエスさまの原点に立ち返ります。その原点、わたしどもも知りたいところです。それは
「貧しいものは祝福されている!」との言葉です。それは神さまに喜ばれ、護られているという
ことでしょう。

わたしどもは何よりも神さまに喜ばれるものでありたいのです。このこころざしは受け継ぐ人
々をつなぎます。

1970年代世界的な規模での、いえ、特に先進諸国での慢性的な疲れが出てきて、新たな世
代がその生き方を探って、異議申し立てが始まり、それが多くの人々の共感を得て広がりました。
そんな中で、イタリア、ウンブリアのオリーヴ畑でリッアカルディという高校生が人との深い対
話をしようと仲間に呼びかけ始めたのです。人は人との深い出会いにおいてこそ人になれる。仲
間がひろがる。人々が人間としての魂を呼び覚まされたのでしょうね。この働きが今日聖エジデ
ィオ共同体(初期に集った聖堂の名前をとった)として結実しています。「貧しい人々」への愛
のわざを地上のあちこちで実施しています。「地上のあちこち」には「貧しい人々があふれてい
る!」そのほとんどが働いても突然その生活が破壊される、そう戦争のためです。

深い出会いはわたしどもの中にあるよりよいものを引き出します。厳しい対立においては忍耐
と寛容という美徳をはぐくみます。時間をかけて内なる良きものをそだてることが最も迂遠であ
りながら、しかし最も実は有効なのであることを知らされます。

このような働きが、今日もなお続けられています。多くの人々の共感と支援をつくりだしなが
ら。