館長の言葉

2011年4月  東日本大震災にあたって

大切な人のために、もう一度、心に希望を持ってください。

もう一度、希望の小さな灯をつけることをなさってください。

いまは、かって生活されていた家の土台しかありません。でも土台は残っているではあり

ませんか。また故郷ですよね。希望をもって、そこから始めたのでしょう。また、そこか

ら始めてください。

 

 スケート競技で、秒の下の単位で競っていた清水宏保選手が、「わたしは、ひとから頑張

ってといわれることがありましたが、被災者の方に、いま、これ以上どう頑張れといえる

のでしょうか。」そして、彼は「でも」と語りました。「しばらくたったら、逆境を人生の

糧に、立ち上がっていく時期がきます。今言うのは酷ですが、つらい環境は必ず自分を育

ててくれます。」(「朝日新聞」329日夕刊)

 

いつもの生活の中でしたのに、一瞬の激震に襲われ、次に襲来した津波がきて、大切な

もの、をなくしてしましました。

平和な生活が、予告なしに一気に喪われ、呆然自失されています。

しばらく、時間はかかりましょう。

ご自分の生活の、さまざまなことを手がかりに、お住まいのあとを訪ねる事と思います。

きっと、そこに土台があります。そしてお隣さんが戻ってこられるでしょうか。そしたら

ご一緒に言葉をかけあいましょう。あなたがたの故郷ですね。ちからをもちよって、あわ

せられのではないでしょうか。

 

 わたしは、かって、一瞬のうちに、愛する子どもたち、そしてまじめに働いて築きあげ

てきた財産をすべて失った人のいることを描いた書物を知りました。

 すべてを失った者が、どのようにして、再び人生に対して希望を抱き、その一歩を踏み

出し始めるか、をみました。友人たちも訪れます。なぜ、すべてを失わなければならなか

ったか、しかし友人たちにも、そのことに答えはありません。

むしろ、与えられている生命を誰よりも、そして今まで以上に大切にして、ご自分に言

い聞かせ、ほんとうに与えられた大切で、かけがいのないこととして、あらためてうけと

め、慈しみ、眼差しを先に先にむけなおしてあらたに、その人生をうけとめていました。

 

しばらくしたら、日常的に生きてきた、かってのご自分から、あらたなご自分を受け止

めなおし、ご近所の方々と、小さな希望をこころに抱き始めて、それを育てていただきた

い。一度は築かれた生活です。もう一度、きっとおできになります。

苦悩と、悲しみと、絶望を、だれよりも感じた人として、だれよりもひとの苦悩と悲し

みと絶望を知る人として、再生してください。

                                  雨貝 行麿