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Logos 今月の言葉


201710 
劇団「風・れら」の第13回公演『アンネの日記』(第407回札幌市民劇場)を見ました。鈴木喜三夫演出で、札幌こどもの劇場です。112日から5日まで5回の公演でした。初日に伺いました。
じつは、さきに鈴木氏はお体のこともあり新聞で「最後の演出」になると報じられていましたのでその演出での狙いをお聞きしたいと考えて、この秋センター講座でご講演をねがったのです。講演当日は医師の勧告もあって鈴木氏は検査入院のため来ることがかなわず代わりに、アンネとペーター、そして介添え役の方がセンターにおいでになり、ホールで3つの場面を実際に演じてくださいました。
その一つは、アムステルダムの隠れ家の小さな部屋で、アンネはペーターと二人きりで語り合う場面でした。1942年から息をひそめて生活をしていたかれら。脚本は、彼らの生活を加賀ながら支援していたミープ・ヒースさんの目に映ったこととしています。 
ミープさんはアンネの父オットーの会社の職員で、彼女自身戦後(第一次)オーストリアからアムスの家庭に里子なって成長した方でアンネたちが隠れて生活することを支援(食料の調達、情報の提供など)し、かれらが19448月逮捕されて連れ去られた後、かれらの部屋を訪れ、床にばらまくようにして放置されていたものの中に赤い格子縞のアンネの日記帖を見つけ、アンネが帰って来たら手渡そうとして保管した方でした。それは当時命がけの行為です。戦後、オットーが帰還してアンネたちが死亡していたことを確かめられたのち彼女は父オットーに手渡しました。それまで日記はプライバシーにかかわるのでしまっていたといいます。
さてセンターで演じられた場面です。
アンネは15才になっていました。年上のペーターにほのかな憧れ、恋とまではいえないひそやかな思いです。2人は狭い部屋で膝をつけるようにして座っています。光は、天井の明り取り窓からさしこんでいます。アンネは自分と、自分の将来を語りだします。こんな時代でも、ひとの心の中には新しい希望が沸き上がります。ペーターはじっと目を凝らすようにして聞いています。彼はアンネの話を聞いているうちにやがて絶望感がひしひしと体に満ちて体を震わせてきます。 
アンネは、それを感じてか、ペーターの背に手を置いて「きっと希望がある」と言い切ります。

 わたしは、改めて『アンネの日記』を読みました。驚きます。日記の中の彼女は、何ページ毎に、何か明るい気持ちが書かれているのです。彼女は、13才で突然日常の生活を奪われたのです。閉塞された状況に投げ込まれたのです。そんな中で、「希望」を失わない。かえって、それだけに、将来、見えない将来を心の中にしっかりと持っているのです。 
アウシュヴィッツに収容されていた心理学者V.フランクルが、心の中の「希望」はだれも奪うことはできない、と言っていましたが、13歳の証言で、心の拠り所を教えられました。

                                      雨貝行麿