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20189

北海道日独協会が森鴎外のひ孫さんをお呼びしての講演会を開催しました。
森千里さんとお呼びする方で、現在は千葉大学予防医学センター長をされている方です。

当初、森鴎外といえば、優れた文学者としてのイメージでした。森千里さんによると、森鴎外は、陸軍軍医として、そのキャリヤーをはじめている、と口火をきりました。講演の題は「見えない糸に導かれて」です。

明治期に、日本の陸軍を創設して地方の青年たちを招集して、共同生活をはじめ、軍事教練をする、ということには、思いもよらない障害がありました。鴎外は青年期ドイツに研修に出かけて、その軍医としての経験を積んできたなかで、心すべきは、その中心が「予防医学」「公衆衛生」でした。

当時日本は、まだ予防接種もしないで、栄養状態もまちまちな地方の青年たちを集める、そして泥にまみれての軍事教練、等のことを考えますと、集団的には予想される疫病などを中心とする集団的疾患が予想されました。実際に赤痢などの伝染性の疾患がひろがりはじめたということです。このような状況に対しての適切な処置、方策を講じなければならない。

彼は日露戦争の後、陸軍内に毎年発生する腸チフス、コレラなど感染症予防に懸命になっていたそうです。その後実際に、寒冷地、旭川に移設された第7師団の駐屯地で赤痢の蔓延を予防する措置をとっていて、その成果を上げていると紹介されましたのです。

鴎外は、北海道に2度きています。その後は「予防医学」として上下水道の完備を視察していました。

そして「わたしは」としてひ孫であるご自分の働きに関してのご紹介でした。

ご自身旭川医大で病院研修をしたとき道北病院でした。しかし曽祖父がそこに来ていたことを知りませんでした。ただ祖父が将来の進路に関して、曽祖父が「おれは将来予防医学が必要だと思って衛生学を学んだ。」といっていました。当時は栄養状態が悪く、感染症などであっけなくいのちを落とす人が多かった。そこで患者を治療するより、予防するほうが先だと理解していたことを知りました。

氏ご自身も環境汚染によって、子どもたちへの影響など研究すればするほど「予防」こそ先だと考えるようになり、千葉大学に「予防医学センター」をたちあげていまそのセンター長をつとめています、とのことでした。

いまから120年前、曽祖父は「環境の状態が健康状態と関係していること、都市の死亡率、とくに子供の死亡率と関係している。」という論文をドイツ語で書いていました。環境予防医学のますますその必要性を実感していますが、曽祖父の課題をいままた思いがけず、自分がひきついでいることにとてもうれしく思っています、とのことでした。

いま環境問題と少子高齢化がグローバルに共通しているのはドイツと日本です。ベルリンのシャリテ医科大学、(火かつてのベルリン大学医学部)との連携を図りながら、やがて日本からドイツへの寄与ができる日が来ることを望んでいます。

見えない糸に導かれながら、いま全力で予防医学に関する研究を続けています、とご講演を結びました。 雨貝行麿