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Logos 今月の言葉

2012年 3月 館長からのメッセージ  

 昨年オーストリア大使ユッタ女史がその離任まえに来札した際、ザルツブルグマリオネット(人形)劇場の話になりました。ヨーロッパでは子どもたちのために人形劇場が活発で、その人形も高さは70センチはあり衣装も本格的です。上演するための劇場も立派です。子どもたちにだからといってすべてに手を抜かないばかりかかえってきめ細かいものです。
 
子どもは真実を見つめます。真実を喜びます。おとなが、いささか手を抜いたり、うそを言ったり、言いまかしたりすると見抜きます。こどもたちの目は直載です。「目」でというよりも「心」でなのでしょうか。それとももっと深い「たましい」でなのでしょうか。王さまが「はだか」であるといったのは子どもでしたね。
 子どもたちの「目」を手がかりに子どもたちの「たましい」のありどころに触れたいと北海道オーストリア協会がクリスチャンセンターを会場にクリスマス会を開催した際、子どもたちを招き「人形劇」をしました。協会の大人たちも観劇しています。
 人形劇団では、黒をバックにして、小さな小さな緑色の芋虫が登場しました。一瞬何か?注目しました。するとオリジナル音楽とともに這いつくばっていた芋虫がゆっくりお腹を持ち上げて右から左へとムックリムックリ這い出しました。左手には葉っぱがあります。葉っぱにようやくたどりつくと芋虫は脊のびしてパクッと食べました。すると急に芋虫はひとまわり大きな体に成長します(人形師が大きな体に差し替えます)。その芋虫は今度右手の葉っぱに黙々としかし確実にむかって身体を伸ばしたり縮めたりを懸命に繰り返しながら右手の葉っぱをパクリと食べると一段と大きな芋虫に成長します。
 
子どもたちは目をいっぱい見開いて緑色の芋虫が伸び縮みしながら左に行って葉っぱを食べて一段と大きくなるさまを身を乗り出すようにして注目しています。右に、そして左にと何回が行き来きして葉っぱを食べてすっかり大きくなった緑色の芋虫が突然茶色のさなぎになって動かなくなりました。子どもたちは漸く一息つきます。さあ、どうなるでしょうか。するとさなぎの脊中がふたつに割れ始めます。そこから極彩色の斑点が印されたふたつのはねがおおきくおおきく広がりました。そして直ちに翼を二回三回と広げるようにして羽ばたき、飛び立ったのです。息をのんだ瞬間です。二十分ほどでしたでしょうか。音楽だけ、そして子どもたちの息をころしたような沈黙の時間でした。
 
子どもたちは、いまいのちの営みは決して後戻りはしない、小さな小さな芋虫がだんだん大きく成長して、さらに大きく羽ばたく一瞬を目のあたりにしました。この事実の連鎖にいのちの真実を、そなわっている「たましい」で受けとめたことでしょう。たましいの奥底にしまいこんでくれたでしょう。生涯忘れることはありません。
 
いのちの営みは決して後戻りしない。必ず、先へ先へと伸ばしていく。そして見まごうばかりの変身をとげるのですね。いま、旅たちの季節です。 雨貝行麿

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