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三浦綾子さんは朝日新聞1000万懸賞小説の募集で、小説『氷点』が入選して一躍著名になられました。「キリスト教の原罪」をテーマにしていると喧伝されたのです。「氷点」と言う言葉には「北海道」に似つかわしいことでしたが、小説の舞台はまさしく「北海道」しかも三浦氏は寒冷な(!)「旭川」の在住、ご自身ばかりかご夫君も旭川六条教会のプロテスタント教徒と知られました。
この発表がなされた当時わたしは植村正久が育て上げた「東京神学社」を前身とする「東京神学大学大学院」生で北森嘉蔵牧師が牧会する「千歳船橋教会」におりました。北森師は朝日新聞の主催するカルチャーセンターで「聖書講義」を担当され、またNHKTVの教育放送での「宗教の時間」の顧問と講師をされ「キリスト教と文学」というテーマに刷新的な切り口で講演をされていました。この「キリスト教と何」は北森神学の展開と展望には恰好のテーマでもありました。いいかえればキリスト教の宣教は、相手のあってのこと、特に日本のような伝統文化のあるところではその文化的伝統との折衝は、福音を鮮明にアッピールするうえでの契機とする、という宣教理論をもっていました。そこで朝日新聞の懸賞小説『氷点』は恰好の題材になりました。
授賞記念の講演会が予定されました。1000万懸賞小説をめぐる朝日の講演会です。場所はいまなない有楽町駅脇の朝日講堂でした。講師は当時著名な佐古純一郎氏。わたしは北森師に頼み込みました。「もぐりこめないでしょうか。」間もなく先生から「当日朝日講堂の裏出入り口においでなさい。」。講演が始まる前にわたしは最前列の席に座っていました。首を斜め前にあげて佐古氏の講演に聞き入りました。
朝日新聞の新聞小説は、日本近代文学の王道である、かって戦争の時代に新聞は競って戦争報道に懸命で、それを世論が歓迎したし、軍人をだした家庭・故郷では「出征した軍人の所属する○○部隊は中国のどこそこで手柄をあげた。」銃後!の話題になっていたし、生きていることの手がかりにもなっていたのです。しかし、戦争が終結すると多く獲得した読者のために新聞はそのスペースを埋めなければならない。そこに初めて新聞小説ができ、その嚆矢が夏目漱石の『こころ』である、しかも夏目はその小説で「人間の罪」をテーマにしていた。これこそ日本の「近代小説の夜明け」である、こう語ったあと、今回『氷点』つまり「人間のこころの底にある罪の問題を正面からとりあげ、こころが凍る、氷点をモチーフにされている、だから、三浦綾子氏のこの作品は久々の日本の近代小説の王道を示した作品である、と締めくくられたのです。
やがてTVドラマができ、映画も作成され、ヒロインも生み出しました。三浦氏はご夫君ともどもに多くの著作をだし、キリスト教信仰のテーマを人びとの間での苦悩・悲惨な出来事に対して対処するすべを、牧師の仕事を埋めあわせるように語りだしました。
わたしは三浦氏にご講演を依頼したこともありましたが、その最晩年、ご夫君に車椅子で案内されたところで再会しました。「神さまがわたしにがんを下さったのよ。」とほほえまれたのです。強靭でしかも温厚はその姿をこころに刻みました。感謝です。
一昨年センターの方々と三浦綾子記念文学館を訪れ、ご夫君にお会いしてきました。
おだやかで、やさしい方です。
(雨貝行麿)
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